研究データ
〈2018/05/15〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
【神奈川大学産官学連携研究事業】第1回 小学校の入学準備に、ぜひ交通安全教育を
交通事故分析総合センターの報告によると、ここ数年の歩行中の交通事故の死傷者数は、小学校1年生が突出して多くなっています。
保育園や幼稚園の行き帰りは保護者や園バスによる送迎があり、また在園中のお散歩は保育者が付き添っているので、子ども達の安全はしっかり守られています。しかし、小学校に入ると、子ども達だけで登下校し遊びにも行くようになるので、保護なしで道路を歩くことに慣れていない小学校1年生が交通事故に遭う危険が高くなります。
小学校ではもちろん学校保健安全の一環として交通安全教育が計画・実施されています。しかし、入学直後の慌ただしい時期の実施は難しく、また子ども達も、一日の多くの時間を過ごす場が「園」から「学校」に突然変わり、生活や環境、人間関係の急変に適応するのに精一杯です。そんな小学校1年生にとって、親も先生もいない学校の外(交通事故は学外で発生する)で、まだ教わっていないから、自分自身で考えて判断し、安全で適切な行動をとらねばならないというのは、かなり困難な状況です。子ども達を交通事故から守るため、小学校入学の前に「入学準備」として、園や家庭での実践的な交通安全教育を行うことが必要です。
実践的というのは、子ども自身に考えさせ、実際にやらせる(体験させる)ということです。園でのお散歩や保護者との外出の際に、子ども達は信号や交通標識、横断歩道を見ていますし、車両(自転車を含む)や歩行者も見ています。しかし、保護してくれる大人が一緒にいる時は風景の一部としてしか見ていないことが多く、また、大人が先回りして危険を回避してくれるので、どういう風に危険な状況が発生するのかを知らずにすんでしまいます。「今、信号は何色? 渡ってもいいのかな?」、「この道路、ここで渡ってもいいのかな? 少し向こうにある、道路にシマシマが描いてあるのは何だろう?」、「道路はすぐに渡っていいの? 横の道から車が急に出てくるかもしれないよ」などと子どもに問いかけ、信号が青になってから渡る、横断歩道を渡る、道路に飛び出さず立ち止まって左右の安全確認をすることなどを、実際に道路で子どもと一緒に確認しながらやっていくことが、道路上の危険についての認知と理解、危険回避のために必要な行動がとれるようになるのに効果的です。園内や家庭内で紙芝居や絵本、ビデオなどを活用した教育ももちろん意味はありますが、教室での学びを実践的なものにするには現場での実習が不可欠です。
園を巣立っていった子どもたちが、小学校入学後も元気で健やかな日々を送ることができるよう、入学準備にぜひ交通安全教育を。
参考資料:交通事故分析センター、イタルダインフォメーション 116 (2016), 121(2017).
【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授