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調査研究・コラム

コラム

〈2025/02/04〉

主席研究員 桜井智野風

基本的な動きについて その4 「バランス」

保育園児にとってのバランス能力の獲得は「正しい姿勢」を目指すものではありません。

ネット上では、子どものトレーニングについて次のようなコメントをよく見かけます。「子どもはバランス能力を高めることで正しい姿勢が身につきます」「子どものバランス能力を向上させるために体幹を鍛えましょう」一見納得できそうですが、これは幼児と児童を混同した考え方です。以前お話ししたように、プレ・ゴールデンエイジ(3歳〜6歳頃)の子どもには、この時期特有のバランス能力の発達過程があります。この時期の目的は、「正しい姿勢」を得るためにバランス能力を向上させることではありません。「正しい姿勢」が強調されすぎるあまり、「幼児期に体幹トレーニングが必要」などという記事を見かけることもあります。しかし、筋肉の発達が未熟な幼児期に、腹筋や背筋を集中的に鍛えるようなトレーニングを行っても意味がありません。幼児期は、体の内側の筋肉(体幹)よりも、脚の筋肉が発達しやすい時期です。そのため、まずは脚を中心に、バランスを取る力を自然に身につけられるような動きや遊びを取り入れることが大切です。

 

お子さんの成長とバランス能力の発達について

お子さんのバランス能力は、赤ちゃんの頃から少しずつ発達し、大人になるまで成長し続けます。生後数か月の赤ちゃんは、まだ自分の体を自由に動かせません。しかし、筋肉の使い方を覚えることで、首を持ち上げたり、寝返りをしたりする力が少しずつ身についていきます。

 

幼児期のバランス能力の発達

幼児期は、体が急激に成長する一方で、重心や筋力が安定していないため、バランスを取る力もまだ未熟です。バランスには、大きく分けて2種類あります。

「動的バランス」 … 動いているときにバランスを取る力

「静的バランス」 … じっとした状態で姿勢を保つ力

この時期に特に大切なのは、「動的バランス」の発達です。お子さんは、ハイハイの時期を経て、やがて二足で立ち、歩くようになります。この過程では、体を揺らしながらバランスを取ることが求められます。つまり、この時期は「動的バランス」を身につける大事なタイミングなのです。

 

動的バランスが育つと何が変わる?

「動的バランス」の発達は、単に筋肉を鍛えるだけではありません。お子さんが動いているときに、周りの物をはっきりと見たり、体の位置を正しく把握したりするために、次のような情報が脳へ伝わります。

目からの情報(視覚) … 物をしっかりと見る力

足の裏の感覚(触覚) … 地面の状態を感じ取る力

耳の奥の感覚(平衡感覚) … 体の傾きや動きを感じる力

これらの情報を脳が統合し、目や体の動きをコントロールすることで、お子さんのバランス能力がどんどん高まります。

 

バランスが良くなるとできることが増える!

子どもは、動きながらバランスを取る「動的バランス」を身につけることで、じっとした状態で姿勢を保つ「静的バランス」も自然に発達していきます。その結果、歩く・走る・立つ・座るといった基本的な動作がスムーズになり、ようやく「姿勢が良くなったね」と実感できるようになります。このように、幼児期には「正しい姿勢」を意識させるよりも、さまざまな動きを通じて身体の感覚や柔軟性を育てることが大切です。特別なトレーニングをする必要はありません。むしろ、 たくさん歩く・走る・ジャンプするなど、脚を使う遊び を取り入れることが、自然とバランス能力を高める最適な方法です。公園でかけっこをしたり、鬼ごっこをしたり、遊具で遊ぶなど、楽しい活動の中で、子ども自身がバランスを取る力を育んでいきます。

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