コラム
〈2024/12/04〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
子どもの人権と命を奪う―虐待死
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
11月20日は「世界こどもの日」。1989年の国連総会で、子どもは守られる対象であり、かつ権利を持つ主体であることを定めた「子どもの権利条約」が採択された記念すべき日です。日本は1994年にこの条約に批准しました(参考資料1)。けれど、30年経った現在でも、虐待や貧困、いじめなど、子どもの人権が守られていない状況があります。
虐待で、子どもの人権が損なわれただけでなく命まで奪われてしまった虐待死について見てみます。厚生労働省の報告によると(参考資料2)、最新は18次の2020年4月~2021年3月の1年間の子ども(0~17歳)の虐待死は、心中によらないものが49名、心中によるものが28名、計77名で、前年度(第17次:2019年4月~2020年3月)より。心中によらないものは減っていますが心中によるものは増えたため総数はほぼ同じで、ほとんど変わっていません(図1、参考資料2より作成)。
虐待死を年齢別にみてみると(図2、参考資料2より作成)、0歳児が圧倒的に多くなっています。そして、そのほとんどが心中によらないもの、つまり加害者は一緒に死ぬつもりはない、子どもだけが痛みを被る虐待による死亡です。2歳以降では心中による死亡が漸増し、総数では、0歳を除くと2歳から5歳の幼児の虐待死が多く、虐待死の被害者は「乳幼児がほとんど」という状況は変わっていません。
子どもと家庭の福祉や健康の支援、子どもの権利を守る政策の推進を担うこども家庭庁が、2023年4月に発足し(参考資料3、4)、虐待防止にもしっかり取り組んでいくことになりました。しかし、同年、虐待防止施策の根幹となる子どもの虐待数の把握が長年にわたって正確にできておらず、実態と異なっていたことが明らかになりました(参考資料5)。2022年の統計だけは修正されましたが(参考資料6)、子どもの命と健康と人権を守るため、関係する大人たちは、官民を問わず、やるべきことを誠実に正確に着実に行う義務を再認識すべきです。
【参考資料】
1)公益財団法人 日本ユニセフ協会, ニュースバックナンバー2016年度, 11月20日は「世界子どもの日」, https://www.unicef.or.jp/news/2016/0296.html.
2)厚生労働省, 社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会, 子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第18次報告), https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190801_00006.html.
3)こども家庭庁, こどもまんなか こども家庭庁, https://www.cfa.go.jp/.
4)こども家庭庁, これまでの経緯, https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo_sodachi/keii.
5)東京新聞(デジタル), 2023年10月4日, 児童虐待の統計が長年「水増し」状態になっていた 虐待がなかったケースまで算入 児相の対応件数, https://www.tokyo-np.co.jp/article/281455.
6)朝日新聞デジタル, 2024年9月24日, 虐待の相談件数を修正、22年度約4千件減 一部自治体で計上ミス, https://www.asahi.com/articles/ASS9N2D44S9NUTFL00KM.html.