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調査研究・コラム

コラム

〈2024/10/03〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

保育者からみた子どもの健康の問題 ~日本とニュージーランド~

神奈川大学 渡部かなえ

神奈川大学産官学連携研究事業

 

日本でもニュージーランドでも、健康と安全は就学前教育(保育所や幼稚園など)で重視されており、日々の生活や遊びを通して食べること・運動すること・清潔や安全について、保育者(保育士や幼稚園教諭など)は子ども達に指導・支援をしています。そんな保育者からみた、それぞれの国の保育園児・幼稚園児の健康と安全の問題について検証した筆者の研究をご紹介します(参考資料)。

子どもの健康上の問題で、ニュージーランドの保育者の指摘第1位はぜんそく、2位はアレルギー、3位は虫歯でした。ぜんそくについては、貧困家庭の埃っぽさやかったりジメジメしている住環境が悪影響を及ぼしているという保育士のコメントもありましたが、清潔が保たれ良い住環境が整えられている家庭にもぜんそく児はおり、なぜニュージーランドにはぜんそくに罹患する子どもが多いのか、医師にもよくわからないそうです。また、小学校以降は肥満が子どもの健康の深刻な問題の1つになっています。保護者が甘いお菓子や高カロリーの健康的でない食品を子どもに与えることがその原因です。小学校の教員は保護者に健康教育への理解と保護者自身による健康的な生活の実践を望んでおり、子どもだけでなく保護者への教育の必要性を実感しています。

日本の保育者が心配している子どもの健康上の問題の第1位はアレルギー、2位は好き嫌い、3位は睡眠の問題でした。特に睡眠については、保護者のライフスタイルが影響を及ぼしており、子どもが夜遅くまで寝ないで起きていることや睡眠時間が短くなっていることなど、問題解決には保護者の生活の改善が必要とのことでした。また、日本の子どもの健康問題の背景には、世の中があまりに便利になりすぎたこと、保護者が忙しすぎて生活が不規則になることに加えて、保護者が本来ならば家庭で行う教育やしつけが行われていない(家庭で行うべき教育やしつけも園でやってもらいたいと考えている)ことがあげられていました。

幼児の健康教育が目指すものは、日本もニュージーランドもよく似ていて、生涯にわたる健康の土台作り、健康に関して賢明な判断・選択ができるようになる、自身と家族のために健康的なライフスタイルが選択できるようになる、ことでした。

ニュージーランドは実は格差社会で、子どもの貧困が大きな社会問題になっています。貧困や格差が背景にある子どもの健康問題は、各園で対処できるものではなく、国や政府による対応が必要です。日本でも、特に母子家庭・ひとり親家庭の貧困が子どもたちの心身の健やかな育ちと健康に深刻な負の影響を及ぼしています。

筆者のニュージーランドでの調査とその研究報告から数年がたち、日本では子ども家庭庁ができて、保護者や家庭への子育て支援の充実がはかられていますが、園への支援が不十分なまま負担だけが増やされる政策では、保育所・保育者が疲弊していく一方です。子ども、保護者、保育施設、みんなを大切にする公的な支援政策の実現を切に願います。

 

<参考資料>

Watanabe K., Dickinson A., Comparative study of preschool current health issues and health education in New Zealand and Japan, Comparative Issues in Education Research, Vol.10, No.4, pp219-224, 2017.

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