コラム
〈2024/08/05〉
主席研究員 桜井智野風
子どもの「できた!」を大切に! 大人は「よく頑張ったね!」を忘れずに!
有能感と無力感
スポーツ科学や心理学の分野において「有能感」という言葉があります。シンプルに言えば、「私はできる」という自己肯定の考え方です。有能感の高い子どもは、目標に対してつまずきや困難が生じても、乗り越えていく努力を継続していきます。結果、成果が出てさらに有能感が高まるという「良い循環」が生まれます。逆に有能感の低い(これを「無力感」とも呼びます)子どもは、ちょっとしたつまずきが起きると「やっぱり私はダメだ。うまくいかない」という考えになり、努力することを諦めて成果が上がらないという「悪い循環」に陥りやすくなります。つまり、私たち大人は子どもに「有能感」を持ってもらえるようなほめ方をしないといけません。
杉原(2014):幼児期における運動発達と運動遊びの指導より 著者改変
スタンフォード大学での実験
1998年、アメリカ・スタンフォード大学で、400人の児童を対象に単純な問題を解かせるテストが2回行われました。第1回目のテストの後、それぞれの児童の答案を採点しましたが、得点とは関係なく、それぞれちょっとしたほめ言葉をかけてあげました。児童たちの半分には「能力」をほめる「頭が良いね!」というほめ言葉を、残りの半分には「努力」をほめる「本当によくがんばったね!」という言葉でほめました。
第2回目のテストの際に、児童たちには、難易度の高いテストか低いテストのどちらかを受ける選択肢が与えられました。能力をほめられた児童たちの70%が簡単なテストを選びました。これは難しいテストで失敗して「頭が良い」という評価を失うことが怖かったのでしょう。しかし、努力をほめられた児童たちの90%は難しいテストを選びました。成功ではなく挑戦に関心をもち、自分がどれだけがんばれるかを見ている大人に示したかったのでしょう。このように、ほめ言葉のわずかな違いが児童の考え方や行動習慣に影響を及ぼすことがわかります。
「能力」と「努力」の違い
スタンフォード大学の実験に参加したのは児童期の子どもですが、より小さな幼児期になると、「能力」と「努力」の概念もしっかりと分けて考えられない場合があります。幼児期の子どもにとって「努力」の評価は「能力」の評価と同じ意味を持つともいわれています。つまり「よく頑張ったね!」は「頭がいいね!」を抱合した意味として受け取ることになるわけです。つまりは、小さな子どもたちには「よく頑張ったね!」という言葉が最上級のほめ言葉になるのです。
重要な幼児・児童期
児童期までに形成された運動に対する強い無力感は、成人してからの運動参加を妨げてしまうそうです。今、目の前にいる子どもたちのみならず、彼らの将来までも左右してしまうかもしれないのです。上手くほめることが出来る大人になりましょう。