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調査研究・コラム

コラム

〈2024/07/09〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

コロナで学力格差が拡大

神奈川大学 渡部かなえ

神奈川大学産官学連携研究事業

 

2020年の春の新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、世界中で学校も閉鎖され、健康を損なうことだけでなく、子どもたちの学力低下も懸念されました(参考資料1)。

けれど、日本では、コロナによる長期の休講にもかかわらず、子どもたちに学力低下は見られなかったと報告されました(参考資料2・図1)。

図1:コロナ前(2016年度)と2021年の全国学力テストの成績の比較(参考資料2)

 

この文科省の発表・新聞報道に安堵なさった保護者の方は多いと思いますが、コロナは本当に子どもの学びに深刻な影響を及ぼしてはいないのでしょうか?

全米共育統計センターの2023年6月の発表によると、もともと学力が低い子どもの成績の落ち込み度が大きく、低所得層が多い人種の子どもの学力低下が目立ち、コロナ禍で学力格差が広がっていました(参考資料3)。

学力(の平均値)が下がらなかった日本ですが、日本財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティングが小学生から高校生までの子どもがいる世帯の親を対象に行った調査(参考資料4)によると、高所得の保護者の子どもは勉強時間があまり減少しておらず、(登校できなくなった)学校外での勉強時間は多い状態を保っていました。また、成績が中位・下位の子どもは勉強時間に大きな変化はなかったけれど、成績が上位の子どもは総勉強時間がコロナ禍で増加しており、その背景には(登校できなくなった)学校ではなく、学校外での勉強時間の増加がありました。

また、学習手段や教材の提供状況と勉強時間の関係をみてみると、双方向形式のオンライン授業が提供されると、オンデマンドや自主教材のみの場合に比べて晩強時間があまり減らないけれど、双方向形式のオンライン授業は、高所得家庭の子どもは13.4%が提供されていたのに対し、低所得家庭では3.3%だけでした。

コロナのパンデミックで、日本でも、子どもの学力の平均値は変わっていないが、教育格差が広がりました。平均値だけを見ていては分からない、基礎学力を育む大事な時期の教育格差の拡大の影響を深刻化させないため、学力テストの結果は、偏差(どのくらいの幅=格差)があるのかをきちんと数値で把握することに加え、格差の仮想にいる子ども達への個別支援の充実や、教育の機会の一層の平等化やデバイス(教材)の学校からの貸し出しなどのサポートを充実させていく必要があります。

 

【参考資料】

1)Bastian A. Betthäuser, Anders M. Bach-Mortensen & Per Engzell, A systematic review and meta-analysis of the evidence on learning during the COVID-19 pandemic, Nature Human Behaviour volume 7, pp.375–385, (2023.

2)日本経済新聞社, 2022年3月28日, コロナで長期休校、学力低下見られず 文科省(電子版),

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE263LD0W2A320C2000000/

3)日本経済新聞社, 2023年6月22日, アメリカの中学生、コロナで学力低下 人種で格差広がる,(電子版), https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN21E8I0R20C23A6000000/

4)公益財団法人日本財団, 三菱UFJリサーチ &コンサルティング株式会社, コロナ禍が教育格差に もたらす影響調査 -調査レポート-, https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2021/06/new_pr_20210629.pdf

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