コラム
〈2023/12/04〉
出版不況でも絵本は買われ読まれています
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
1997年以降、書籍(紙の本)の売り上げは減り続け、出版不況が深刻化しています(図上)。しかしそのような状況の中で児童書だけは、少子化で子どもの数が減っているにもかかわらず、一定の販売額が維持されています(図下)。
図:書籍の販売金額の推移(資料1)
少子化でも児童書が手堅く売れている理由の1つは、幼児の親の教育熱に加えて、人口が多い団塊の世代が祖父母となり孫のために本を買うからと考察されています。特に図鑑は祖父母から孫へのプレゼント需要が高く、小全巻セットなどのまとめ買いがされています(資料2)。
児童書の中で特筆すべきは絵本です。2019年は880億円(うち絵本は312億円)、2020年は930億円(同330億円)、2021年は967億円(同353億円)と、絵本の売り上げが増加しています(資料3)。絵本の売れ行きが好調なのは、子どものために買うだけでなく、大人が自分のために買うことが増えているからです。大人自身が子どものころに読んだり読んでもらったりした絵本をもう一度読みたくなり、読み返すことで、子どもの時の気持ちを思い出すと同時に、子どもの時とは違う新たな発見や感動が得ることができます。古典的な名作絵本との再会だけでなく、近年では翻訳絵本や芸術性が高く価格も比較的高い絵本、性的少数者、虐待、死など多様な題材を扱う作品など、大人も引き付ける多様な絵本が出版されており、大人の読者を増やしています(資料4)。
幼児期や小児期において、童話などの読み聞かせやひらがなを読む力が身についた際に、子どもは自ら読むことを通じて言葉を学び、豊かな情緒を育みます。大人になってから再び絵本を読みたいなという気持ちになれるのも、子どもの頃の絵本を読んでもらった思い出や絵本が読める環境が身近にあったからです。保育所や幼稚園では保育士さんや園が子どものために選んだ絵本を用意し、子どもたちへの絵本の読み聞かせも丁寧に行われています。ご自宅でも、保護者の皆様が子どもと一緒に絵本を読む時間を大切にしていることでしょう。豊かな子ども時代のために、そして大人になってもその豊かな時間と心を持つことができるように、絵本を大切に読み続けていきましょう。
【参考資料】
1)出版科学研究所, 書籍販売額, https://shuppankagaku.com/statistics/paperback/
2)朝日新聞, 2018年12月20日 朝刊, 絵本好調、祖父母が支える デジタル時代、読み聞かせ再評価
3)出版科学研究所, 出版指標年報 2022年版, 絵本市場は0%増の353億円, pp.131-132, 2022.
4)日本経済新聞, 2022年9月29日, 日本経済新聞 朝刊, 大人も夢中、絵本9%上昇 作りに工夫、新刊平均1259円、芸術性魅力、題材も多様化(価格は語る)