コラム
〈2023/10/31〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
コロナ禍で幼児の発達が遅れた可能性
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
コロナ禍は子どもたちの健やかな育ちに様々な負の影響を及ぼしました。登校や外出、他者との交流が制限された子どもたちに、運動不足、睡眠をはじめとする生活習慣の悪化、学業成績の低下などが伝えられていますが、就学前の幼児にも発達の遅れが生じている可能性がある、という研究データが報告されました(参考資料1)。
調査は、コロナ禍前の幼児に対して行われていた過去のデータと、コロナ禍の影響を受けた幼児の発達レベルを、KIDS乳幼児発達スケール(参考資料2)を用いて比較するという方法で行われました。発達レベルの評価はコロナ前・禍中とも保育士が行っていました。
調査の結果、コロナ禍の影響を受けた子どもは5歳の時点で平均4.39カ月、コロナ前の5歳児より発達が遅れていることが明らかになりました。3歳の時点では、コロナ禍前後で発達に有意な差は見られませんでした。
コロナは保育所でのケアにも影響を及ぼしました。スタッフの感染による閉園や子ども本人や家族の罹患のために登園できない期間があったり、園内でも保育士と子どもあるいは子ども同士の接触に制限をかけなければならなかったり、保育士がマスクを着用しなければならなかったため子どもたちが保育士の顔を認識し辛くコミュニケーションの障害になったり、保育士が消毒や感染予防のための作業に時間や手間をとられたことなどが影響し、保育所も保育士さんも懸命な努力をなさいましたが、コロナ禍前と同じ保育のレベル保つことは極めて困難でした。そのような、保育士さんにとっても厳しい状況だったコロナ禍での保育の質(評価にはITERS-R(参考資料3)・ECERS-3(参考資料4)の2つのスケールが用いられました)とKIDS乳幼児発達スケールの評価は、コロナ禍の3歳児では関連があり、コロナ前の3歳児では有意な関連はありませんでした。5歳児は逆に、コロナ禍の子どもたちでは特に関係は無く、コロナ前の子どもたちで保育の質と発達に関連がありました。
これらの結果について、「パンデミックで保護者の在宅勤務が増えたことが、親子のコミュニケーションがより重要な1~3歳の幼児にはプラスに作用し、一方で3~5歳は友達や保護者以外の大人との交流が重要になってくる時期であるため、外出の機会が制限されたことの負の影響が現れたのではないか」とこの報告では考察されています。また、保護者が抑うつ状態にある場合、5歳児でコロナ前とコロナ禍の子どもの発達の差がより大きくなっていたことが明らかになりました。
以上のことから、「パンデミックの負の影響を受けている子どもたちを特定した上で、学習や社会的成長、身体的・精神的健康をサポートするとともに、家族に対するサポートの提供も重要と考えられる」とこの研究報告では考察されています。
【参考資料】
1)Sato K., Fukai T., Fujisawa K. K., Nakamura M., Association between the COVID-19 pandemic and early childhood development, JAMA Pediatr. 2023;177(9):930-938, https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2807128
2)公益財団法人発達科学研究教育センター(CODER), KIDS乳幼児発達スケール, https://coder.or.jp/kids/
3)Thelma harms, Debby Cryer, Richard M. Clifford, Infant / Toddler Environment Rating Scale®¸ Revised Edition, Teachers College Pr; Expanded, Updated版, 2006.
4)Thelma Harms, Richard M. Clifford, Debby Cryer, Early Childhood Environment Rating Scale (ECERS-3) 3rd Edition, Teachers College Press; 3rd edition, 2014.