コラム
〈2023/08/03〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
幼児教育・初等・中等・高等教育の教員の女性比率
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
幼児教育から高等教育まで、子どもたちは等しく学ぶ権利を持っており、子どもたちを教え導く教員に必要なのは教育者としての指導力などの知識や技術であり、性別は関係がない。しかし現実には、学校種ごとに教員の大きな性差が存在します。
グラフは、OECDの調査報告(参考資料1)から作成した、各国の2019年の女性教員の比率です。日本の幼児教育のデータは掲載されていなかったため、厚生労働省が発表した保育士のデータを用いています(参考資料2)。
どの国も、高等教育になるほど女性教員の比率が低くなっています。特に韓国や日本など東アジア諸国で低く、日本は高等教育だけでなく中等(中学校・高等学校)教育でも、OECD加盟国で最低です。
一方、幼児教育は、どの国でもほぼ女性教員によって担われています。オランダのみ80%台で、他はみな90%以上です。日本は95.8%で、これは20人保育士がいた場合、その中で男性保育士は1名いるかいないか、という稀少な存在です。
それでも、男性保育士数の推移を見てみると(表:参考資料2,3より作成)、1995年は1%に満たなかった男性保育士ですが、徐々に増えてはいます。2020年は統計データが異なるので(登録はしているが保育士として就労していない人を含んでいるので)単純に比較することはできませんが、男女共同参画が最も遅れている領域であることは確かです。また、保育士資格を有しながら保育士として就労していない人(潜在保育士)が少なからずいると思われます。
保育士不足は保育所不足と並んで深刻な問題ですが、潜在保育士は、男女を問わず大勢います(参考資料4)。保育士が国家資格になった直後の2005年は、保育士の有資格者約73万人のうち潜在保育士は約37万人(約5割)でしたが、2022年は有資格者約167万人のうち潜在保育士が約102万人と、6割以上になっています。
「異次元の子育て政策」を政府は掲げていますが、そこには、高等教育とは逆の比率の教員の男女比の極端な偏り(男女共同参画の理念に著しく反している)や保育士の有資格者は大勢いるのに現場では保育士が不足しているという状況への適切な対応策は示されていません。高い専門性を求められ責任も重い保育の専門職への充実した行政の支援が本当に必要です。
【参考資料】
1.OECD, Education at a Glance 2021: OECD Indicator, https://www.oecd-ilibrary.org/education/education-at-a-glance-2021_b35a14e5-en, Teachers, the learning environment and the organisation of schools, Who are the teachers? StatLink https://stat.link/shl1qp
2.厚生労働省, 保育士の現状と主な取組, 保育施設の性別・年齢層別職員構成割合(平均)https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf.
3.総務省, 国勢調査, e-Stat, https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200521, 1995-2015.
4.日本経済新聞(デジタル版)2, 保育士の6割生かせず「資格登録のみ」100万人超 困難な時短勤務、規則緩和空回り, https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68213260W3A200C2NN1000/, 2023年2月6日.