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調査研究・コラム

コラム

〈2023/04/05〉

小学生の荷物の重さ

神奈川大学 渡部かなえ

神奈川大学産官学連携研究事業

 

この3月に保育所や幼稚園を卒園したお子さんは4月から小学校に入学します。ちょうど1年前の4月のこのコラムに、ラン活(小学校入学を控えた子どものランドセル選びや購入するための、保護者の活動)について書きましたが、小さな体に大きなランドセルを背負って通学する新1年生の姿は、かわいいけれど、大きな荷物は重くて大変そうです。子ども自身は、通学時に運んでいる荷物の重さをどのように感じているのでしょうか?

暑い夏の日に、大汗をかきながら登校していた小学校2年生(当時)の江見一夏さんは、「この荷物、どのくらい重いんだろう」と考え、ランドセルや教科ごとの教科書やノート、教材などの重さを1か月(通学した20日間)計りました。最も重い日は約6.2㎏、軽い日でも約4.2㎏ありました。計測結果をグラフ化し(図1)、「一日でスイカ1個分の重さ」、「一週間でコウテイペンギン一匹」「一か月でツキノワグマ一頭を運んでいる」と、ユーモラスでかつ具体的でとても分かりやすい表現にまとめました。江見さんのこの統計調査が第66回統計グラフ全国コンクールで特選の文科大臣賞を受賞したことで、小学生の荷物の重さの問題が広く認識されるようになりました。

図1:小学生の荷物の重さ(参考資料1)

 小学校2年生(8歳)女児の平均体重は27.4㎏です(参考資料2)。そんな子どもにとっての6.2㎏の荷物は、体重52~65㎏の大人にとっては12~15㎏強の重さになります。そんな重たい荷物を背負ったり抱えたりして毎日歩かねばならないとしたら、大人だって疲れて嫌になってしまいます。体重の15%を超える荷物は発達に影響を及ぼすことが懸念されていますが(参考資料1)、小学校2年生の体重(平均27.4㎏)の15%は4.1㎏です。つまり、限界の1.5倍~2倍近い重さの荷物を、小学生は毎日の登下校で運んでいるのです。

教科書やノート、教材を学校に置いておけば、登下校時の荷物は格段に少なくなります。これらを学校に置いておくことで生じる不都合の中で大人が問題だと考えることの1つは、家で宿題ができないことでしょう。でも、幼い体に重い負担をかけるという犠牲を払わせてまで宿題を課す必要が本当にあるのでしょうか? 筆者がこの冬(2023年2月)に教育視察を行ったニュージーランドも、コロナ前に調査で訪問したスウェーデンも、どちらも子どもの留学先として人気のある国ですが、勉強道具は教科書もノートも教材も筆記用具も全て学校に置いてありました。

「家で勉強する習慣をつけさせるために宿題を出してほしい」と学校に要望する親御さんがいらっしゃいますが、家で勉強する習慣よりも、まずは学校で授業中ちゃんと集中して勉強できるようになることの方が重要です。けれど、重い荷物の運搬で学校に行くだけで疲れてしまうと、授業中に集中して先生の話を聞くことができなくなってしまいます。登下校は身軽に、学校ではしっかり勉強、そして帰宅後は、学校ではできないことや遊びを通した活動を元気に楽しくやることが、特にまだ幼い小学生にとっては必要なのではないでしょうか。

【参考資料】

1.)朝日新聞, 2018年12月28日, 朝刊, 小学生の荷物1か月でクマ1頭分

2.)令和2年度学校保健統計(学校保健調査の結果)の公表について, 文部科学省

https://www.mext.go.jp/content/20210728-mxt_chousa01-000013187_1.pdf

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