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調査研究・コラム

コラム

〈2022/12/28〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

子育て、何が大変? 何が必要?

神奈川大学 渡部かなえ

神奈川大学産官学連携研究事業

 

少子化対策の一環として、政府は5年ごとに「少子化社会に関する国際意識調査」を実施しており、最新の調査は、日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの4か国を対象に、2020年10月~2021年1月に行われました(資料1)。2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界中に広がった年であり、日本はもちろん調査対象国はみなコロナ禍で社会は混乱し、大人も子どもも子育ても大きな負の影響を被りましたし、社会・経済にも大きなダメージを受けました。

そこでまず、子育てにかかる経済的な負担の中で、2020年は何が大きいと回答されたのかを見てみます(図1)。

図1:子育てにかかる経済的な負担で大きなもの(資料1)

 日本では、学校以外の教育費が最も多く、次いで習い事、保育にかかる費用、学校教育費用と、保育・教育にかかる費用が大きな負担になっています。特に日本は、学校以外の教育費や塾以外の学校外での習い事が2015年や2010年と比べると著しく増大しており、コロナで学校・園が休園・休校になってしまったのを、学校・園以外で補わざるを得なくなったことが家計をさらに圧迫したと考えられます。保育費用は4か国の中で最も負担感が大きく、またコロナ前の2015年と値はほとんど変わっていないことから、政府の子育て支援の改善は進んでいないと思われます。

4か国の調査年次(2020年)の子どもの出生率(合計特殊出生率)は、フランスとスウェーデンがそれぞれ1.83・1.66とコロナ禍でも比較的高い出生率を維持しており、ドイツは1993年に1.24と著しく低下しましたが、その後に増加に転じて2020年には1.53になっています。日本は2003年~2004年に1.29まで低下し、その後も低いまま2020年の1.33に至っています(資料2)。

日本はなぜ出生率が低いままなのでしょうか。子どもを産み育てやすい国かどうかということへの4か国の回答を見てみると、(図2)、そう思う(「とてもそう思う」と「どちらかといえばそう思う」の計)という回答が日本は著しく低く、他の3か国に比べて、子育てをしやすい国ではないからだ、というのが理由の1つと考えられます。

図2:子どもを産み育てやすい国だと思うか(資料1)

 子どもを産み育てやすい国だと思う理由として半数以上(50%以上)の人があげた項目が、スウェーデンではとても多く(8)、ドイツでは4、フランスでは3つありますが、日本は「治安がいいから」の1つしかありません(図3)。特に、他の3か国で50%を超えている保育サービスの充実や妊娠から出産までの母子の医療サービスが日本は低く、これでは子どもを産み育てることにポジティブにはなれません。

図3:子どもを産み育てやすい国だと思う理由(資料1)

 政府の予算案は、防衛費の増額が優先され、子ども関連予算の財源の問題は先送りされてしまいました。子育てや保育が限界ギリギリのところで何とか行われているという余裕のない状況は、保育士や保護者を追詰めてしまい、子どもの虐待という悲しい結果を招いてしまう恐れがあります。経済的なしわ寄せが子どもたちに行くことがないよう、保育や教育、そして子育て支援にきちんと予算が配分されることを望みます。

【参考資料】

1)内閣府, 令和2年度「少子化社会に関する国際意識調査報告書」【全体版】(PDF形式)

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/r02/kokusai/pdf_index.html

2)The World Bank, Fertility rate, total (births per woman), Download,

https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.TFRT.IN?end=2020&start=2020&view=bar

 

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