研究データ
〈2022/10/05〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
保育士さんのストレスとモチベーション
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
幼児の健やかな育ちを支援し、子どもの命と健康を守って日々保育をしてくれる保育士さんは、子どもにとっても、子どもを園に預ける保護者にとっても、そしてその保護者が働く職場や社会にとっても必要で重要な存在です。そんなかけがえのない存在である保育士さんですが、近年、募集に対する応募者は減っており(参考資料1)、また多くの保育士が早期に離職しています。
保育士に限らず休職や離職の主要な原因はストレスですが、人と関わることが仕事であるヒューマン・サービス業では、ストレスが積み重なってバーンアウト(燃え尽き症候群)が多発することが、職場におけるストレス研究で明らかにされていますし(参考資料2)、保育士を対象とした研究では、ストレスやバーンアウトが保育観や専門性を高めていくことへの意識の低下に影響することが報告されています(参考資料3)。
私のゼミ学生2名が、保育士さんのストレスとモチベーション(やる気・頑張ろうと思う気持ち)の関係を調べて、保育士さんのストレスを軽減し離職を防ぐことに貢献できる研究をしたいと考え、神奈川大学と産学連携協定を結んでいるヒューマンスターチャイルド社を通して保育士の皆様に協力していただいてアンケート調査を行いました。彼らの研究結果(卒業研究)を紹介します。
モチベーションには、「人間関係(職場内と職場以外の両方を含む)」「プライベート」「環境」に関することが大きな影響を及ぼしていることが分かりました。園児の年齢によってモチベーションの高さとストレスが左右されることはありませんでした。職場で子どもと接する経験が豊富であるほどモチベーションは高くなり,さらにプライベートで子どもと接する経験や保護者としての経験があるとモチベーションは高くなりストレスは軽減されていました。なお、責任ある立場はモチベーションが低くストレスを感じやすくなっていました。
また、「職場の人間関係」「保護者対応」「時間の欠如」は「心理的鬱」を引き起こすこと、「時間の欠如」は「社会的機能不全」(保育の社会的な役割を十分に果たせていないと感じることと、自分自身が社会の一員としてきちんと社会生活を送ることができていないと思うことの両方)につながっていました。そして、「給料待遇の不満」や「社会的機能不全」は保育士のモチベ―ションを低下させてしまうことに影響していました。
調査結果から、保育士さんのモチベーションとストレスには関係があり、モチベーションが高いとストレスが低く、ストレスが高いとモチベーションが低いことが分りました。また「人間関係」「プライベート」「環境」が良好であるかどうかがモチベーションに強く影響しており、「職場の人間関係」「保護者対応」「時間の欠如」「給料待遇の不満」がモチベーションの高低とストレスの高低の両方に影響していました。
経験が浅い保育士さんに対しては研修や上司との会話で知識や問題の解決法を得ることや、責任を負っている保育士さんに対しては事務仕事や他の者でも出来る仕事を周りと分担作業するなどの対応は、既に保育の現場で行われていますが、学生たちの卒業研究の結果からも、保育士さん一人一人のワークライフバランスを更に良いほうに高めていくことや、社会が保育士という職の専門性の高さをきちんと認識し正当な評価をするようになることが、やりがいはあるけれど、責任が重く激務で、なのに(給与面や社会的評価などで)きちんと評価されていない・報われない、という保育士さんのやるせない思いを軽減でき、ストレスを減らしてモチベーションをさらに高めていかれるのではないかと思われます。
【出典】若林杏美・池田大祐、保育士におけるモチベーションとストレスの関係性の調査、
2020年度 神奈川大学 卒業研究
【参考資料】