研究データ
〈2022/06/01〉
顧問 渡部かなえ（神奈川大学人間科学部教授）
子どもの虐待死
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
昨年（2021年）に警察が摘発した児童虐待は2174件で、54人の子どもが亡くなっています（資料１）。母親の交際相手の男性による虐待で亡くなった子ども（3歳の男の子）など（資料２）、痛ましい事例の報道には胸が痛みます。2020年度に児童相談所が対応した児童虐待の件数は全国で20万件を超え、過去最多でした（資料３）。
子どもの虐待死についての詳細は、厚生労働省が都道府県、政令指定都市、児童相談所設置市に対する調査で把握した2019年4月1日から2020年3月31日までに発生した虐待によって死亡した子どもについての報告から知ることができます。この調査によると、虐待によって亡くなった子どもの年齢は、0歳が28名とほぼ半数を占めていました（図１、資料４のデータを基に作成）。
また虐待の加害者は実母が30人と突出して多く、52.6％と半数を超えています。実母の交際相手の男性が加害者となった事例は2名（3.5％）と、実は非常に少数です。（図２：資料4のデータを基に作成）そして、実母の虐待によって亡くなった0歳児のうち11名（39.3％）が0か月児、つまり生まれてすぐに命を落としています。
保育所や行政などでは、子どもだけでなく保護者のための子育て支援を行っていますが、そういった支援にたどり着けない母親の社会的孤立が生まれたばかりの赤ちゃんの虐待死につながっていると指摘されています（資料４）。医療にも福祉にもつながることができない母親と赤ちゃんの情報をキャッチし保護や支援につなげていくため、厚労省も全国87か所の女性健康支援センターで出産や育児に課題を抱える母親の相談に対面だけでなく電話やメールで相談にのる施策を進めています（資料５）。子どもの命を守るには、官民の両面から母親と子どもが孤立しないで済む環境の整備が必要です。
【参考資料】
１）朝日新聞, 児童虐待2174件、10年で4倍 コロナ禍、子の変化見えにくく 昨年警察摘発, 2022年3月14日, 朝刊
２）３）朝日新聞, 重い熱傷、数時間放置か 3歳児殺害容疑者「温度上げ遊んだ」, 2021年9月25日, 朝刊.
３）NHK, 児童虐待 昨年度“20万件超” 過去最多 厚労省まとめ, ,
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210827/k10013226101000.html, （2022年5月29日閲覧）
４）厚生労働省, 子ども虐待による死亡事例等の検証結果について（第17次報告）
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190801_00002.html. （2022年5月29日閲覧）
５）厚生労働省, 女性健康支援センター事業の概要,
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/boshi-hoken14/, （2022年5月29日閲覧）
