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調査研究・コラム

コラム

〈2022/05/09〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

子どもの急性肝炎

神奈川大学 渡部かなえ

神奈川大学産官学連携研究事業

 

2022年に入ってから原因不明の子どもの急性肝炎の発症が報告されています。WHO(資料1)によると2022年4月21日現在、12か国で、生後1か月から16歳の、169例の報告がありましたが(表1)、そのうち17例は肝移植となり、1例が死亡という、重症の急性肝炎です。

 

表1 小児の急性肝炎 発症内訳(資料1より作成)

英国 114例 スペイン  13例 イスラエル  12例 米国   9例
デンマーク   6例 アイルランド 5例未満 オランダ   4例 イタリア   4例
ノルウェー   2例 フランス   2例 ルーマニア   1例 ベルギー   1例

 

日本でも4月25日に1例(資料2)、4月27日に2例、計3例(資料3)の可能性のある患児が厚生労働省によって報告されました。

 

患児には、まず肝炎症状が現れる前に腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状がみられ、そして黄疸やASTまたはALT(肝細胞の障害によって血液中に流出してくる酵素)の急激な上昇という肝炎の症状が現れます。急性肝炎を引き起こすウイルスはA,B,C,D,Eの5種類が知られていますが、いずれのウイルスもどの患児からも検出されていません。つまり現在知られている肝炎のウイルスには感染していないのに肝炎の症状が現れているのです。

 

169例中74例からアデノウイルスが検出されています。アデノウイルスは、夏、子どもの間で流行するプール熱が保育者や保護者にはよく知られています。プールの水を介する感染だけでなく、せきやくしゃみによる飛沫感染、接触した手を介する経口感染でも広がります。非常に感染力が強いことや、患児の約4割から検出されたことからアデノウイルスとの関連が調べられています。アデノウイルスで肝炎を発症し重症化することがあるのは臓器移植や抗がん剤治療を受けていて免疫が低下している患者などに限られていて、通常はアデノウイルスで肝炎を発症することはほとんどありません。

 

また169例のうち21例から新型コロナウイルスが検出されましたが、関連は不明です。なお、患児のほとんどが新型コロナウイルスのワクチン接種を受けていないので、ワクチンの副反応可能性とは考えにくいとされています。

 

よって、この小児の急性肝炎の原因はわかっていないというのが実情なのですが、疑いの可能性があるアデノウイルスをはじめとする感染の予防をすることが現時点でできる予防策であり、具体的には既に園でも行われている手指消毒や換気、マスクの(幼児の場合は可能な範囲での)着用などの新型コロナウイルス感染症の予防をこれからもしっかりとやっていく、ということです。加えて、急性肝炎では、呼吸器疾患である新型コロナウイルス感染症とは異なり、発熱や咳などの症状はほとんど出ません。熱がなくても(コロナではなくても)、子どもに下痢や全身の倦怠感(元気がない、だるそうにしている)などが現れたら、急性肝炎の可能性も考慮に入れた十分な注意が必要です。

 

【参考資料】

1)World Health Organization (WHO), Multi-Country – Acute, severe hepatitis of unknown origin in children, https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON376,

(2022年4月30日:閲覧)

2)厚生労働省, 小児の原因不明の急性肝炎について, Press Release:令和4年4月25日

https://www.mhlw.go.jp/content/000933314.pdf(2022年4月30日:閲覧)

3)厚生労働省, 小児の原因不明の急性肝炎について, Press Release:令和4年4月28日

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000935327.pdf(2022年4月30日:閲覧)

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