コラム
〈2022/03/28〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
ウクライナと子ども
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻し(資料1)、子どもたちの被害や犠牲も拡大しています。民家や避難所となっている学校などへの無差別攻撃で100名以上の子どもたちが死亡し(3月16日時点の情報:資料2)、100万人以上の子どもが難民となっています(資料3)。ソ連軍の攻撃は残虐性を極め、市内の産科・小児科病院も爆撃を受け、瓦礫の下敷きになってしまった子も大勢います(資料4)。子どもたちや生まれてくるはずだった子どもたちが、医療のケアを受けることができなくなり、小さな大切な命が危険にさらされ失われています。
マスメディアやSNSを通してウクライナのニュースを大人が見ている時、子どもたちの目や耳にも映像や音声は入ってきます。「この子はまだ小さいから、よくわからない」と大人は思いがちで、だから、この戦争について子どもから何か聞かれた時、どう対応したらよいのか戸惑ってしまうようです。
確かに園児や児童は状況を正確に理解してはいないかもしれません。でも、惨状を見て「怖い」と感じるし、泣いている子どもやケガをした子どもを見て「かわいそう」だと思うし、ニュースを見ている親などの周囲の大人たちの様子からも不安を覚えます。
子どもが不安な気持を訴えたり、直接の訴えは無くても不安そうな様子を示したりした時、大切なのは大人が子どもの気持ちを受け止め、話を聞いてあげることです。その際に重要なのは、否定したり、大人の都合で話を打ち切ったりすることがないよう気を付け、大人自身が感情的にならないで心を落ち着かせ、子どもに寄り添い、「あなたのことは私(親、保護者、保育者など)が守る」としっかり伝えてあげることです。
なお、子どもをニュースに全く触れさせない、というのは逆効果になる場合があります。親や家族がいる安心できる場所でニュースを見た場合と異なり、家の外などの守ってくれる存在がないところでいきなり凄惨なニュースに触れてしまうと、子どもは強いショックを受けるし、親や家族によるフォローが得られないので深刻な影響が残ってしまいます。
どんな理由があっても戦争・暴力はいけないことだとしっかり伝えれば、子ども同士でも暴力で問題を解決しようとしてはいけないということを、子どもはちゃんと学びます。
そして、大人が子どもたちに特定の国や民族(今回の場合はロシア)を差別するような刷り込みをしないことも重要です。戦争は悪ですが、ロシアの市民が極悪非道なわけではありません。子どもが周囲の大人の言動から受ける影響はとても大きいということを再認識して、子どもたちが差別や暴力の無い、安心できる平和な未来を担っていかれるよう見守り支えていくことが、幼児教育の大切な役割の1つです。
【参考資料】
1)読売新聞オンライン, ロシア軍、ウクライナに侵攻…プーチン大統領「東部で特殊作戦を開始」, https://www.yomiuri.co.jp/world/20220224-OYT1T50100/
2)東京新聞, ウクライナの子ども死者100名突破、ロシア軍、患者ら400名を人質に病院に立てこも
る, https://www.tokyo-np.co.jp/article/165989
3)UNICEF, ウクライナ危機 子どもの難民、100万人を超え ユニセフによる追加物質到着
https://www.unicef.or.jp/news/2022/0057.html
4)CNNニュース, ウクライナ南部の産科・小児科病院に爆撃、大統領がロシアの「残虐行為」非難,
https://www.cnn.co.jp/world/35184673.html