研究データ
〈2021/06/10〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
世界中で出生数が減少 -新型コロナ感染症の影響―
2020年から現在にかけて、世界中に広がった新型コロナウイルス感染症によって、多くの人の健康が損なわれ、尊い命が失われました。そして新しい命の誕生も大きな負の影響を受けたことを、各国の統計調査が示しています。
昨年(2020年)1月に日本では74672人の赤ちゃんが生まれていますが、今年(2021年)の1月は63742人で17.1%減少しています(参考資料1)。ヨーロッパで最初に新型コロナウイルス感染拡大の中心地となったイタリアでは、2021年1月の出生数は30903人で、1年前の2020年1月の35918人と比べると16.2%減っていました(参考資料2)。近年、少子化対策が功を奏して出生率が向上傾向にあったフランスやスウェーデンも、2021年1月の出生数は1年前に比べるとそれぞれ15.3%・6.8%減少しています。特にフランスは1975年以来の減少幅となっています(参考資料3,4)。
アメリカ全体の出生数のデータはまだありませんが、2021年度の人口の伸び率は1918年のスペイン風邪(インフルエンザのパンデミック。患者数は世界人口の30%、死亡者数は全世界で4000万人(世界保健機関(WHO)参考資料5)以来の低い水準になると推計されています(参考資料6)。
アジアでも出生数は軒並み減少しています。2020年の時点では新型コロナウイルス感染症対策が比較的うまくいっていると考えられていた台湾でも、2020年1月は12510人だったのが2021年1月には9601人と30%以上の減少となりました(参考資料7)。
1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は先進国を中心に低下が続いており、日本は1975年に人口が減少に転じる2.1を下回って以来、減少傾向に歯止めがかからなくなっています。新型コロナ感染症の拡大は、この少子化傾向をさらに押し下げ加速させることが懸念されます。
2020年-21年の出生率の低下の理由について、フランス国立統計経済研究所(INSEE)は、新型コロナウイルス感染症患者が急増し、医療崩壊が懸念されるなかで病院へ通院し、出産することに不安を感じるカップルが多かったと分析しています(参考資料8)。確かにそれは大きな1つの要因ですが、それだけではなく、コロナ禍による収入の減少や失業、感染症の収束の見通しが立たないこと、将来への不安なども、子どもを持つことをためらう深刻な理由です。
イタリアは7月から月250ユーロ(約3万2000円)の子ども手当を21歳になるまで給付すると決めました(参考資料9)。日本も「子ども庁」創設の検討などをしていますが、他の先進国に比べて大幅に遅れているワクチン接種、国民の8割近くが開催に不安を感じ反対しているオリンピックの問題など、安心して子どもを持つことができる状況にはなっていないのが現実です。
【参考資料】
1)厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2021/01.html
2)ISTAT:イタリア国立統計局, http://demo.istat.it/index_e.php
3)INSEE:フランス国立統計局, https://www.insee.fr/fr/accueil
4)SCB:スウェーデン, 国立統計局 https://www.scb.se/en/
5)国立感染症研究所 感染症情報センター,
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/pandemic/QA02.html
6)Oxford Economics, https://www.oxfordeconomics.com/my-oxford/publications/620317
7)内政部(中華民国・台湾)統計, https://www.moi.gov.tw/english/
8)Nikkei Asia, https://asia.nikkei.com/Spotlight/Society/Birthrates-tumble-worldwide-clouding-post-pandemic-prospects?n_cid=DSBNNAR
9)日本経済新聞社, https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF095RQ0Z00C21A4000000/?unlock=1