研究データ
〈2020/10/30〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
【神奈川大学産官学連携研究事業】幼児教育の学習費
文部科学省は、幼稚園から高等学校に子どもを通わせている保護者が学習のために支出した1年間の費用について隔年で発表しています。最新の調査報告(調査年度は平成30年、発表は令和元年)から、子どもにかかる教育費について考えてみます。なお、文部科学省の調査であるため、幼児教育の調査対象は公立・私立の幼稚園で、管轄外の保育所や認定こども園は含まれていません。
まず、学校教育全体の中での幼児教育の学習費用を見てみます。幼稚園から高等学校までのいずれも公立より私立の方が高くなっていますが、幼稚園では2倍以上、小学校では5倍以上の差があります。また、私立幼稚園の場合、公立の小学校・中学校・高等学校に通う子供よりも多くの学習費がかかっています。
次に、幼児教育の費用の内訳をみてみます。
公立と私立の金額差の最も大きな要因は園の教育費(幼稚園に支払う費用)で21万円の差があります。園外の活動費(文科省の報告では幼稚園でも学校外活動費と表記)、これは習い事などですが、これも私立に通う子供は公立の通う子供の約2倍かかっています。
園外の活動費の内訳は、
園外の活動費も、すべての項目で私立幼稚園に通う子どもは公立幼稚園に通う子どもの2倍かかっています。ただし、どちらの園に通う子どもも、スポーツ・レクリエーション活動費への支出が最も多くなっています。水泳教室やサッカー教室、バレエ教室などのスポーツ・身体活動系の習い事をする子どもが多くなっていることを反映していると考えられます。また学習補助費は、幼児教育の教材や幼児のための学習塾の費用で、幼児期から子どもに「勉強」させる家庭が増えていると推察されます。
令和元年10月からスタートした幼児教育の無償化により、園の教育費(家庭が園に支払う費用)は大きく変ります。しかし全額無料になるわけではありませんし、園への支払いの減額分がそのまま子どもにかける教育費の支出減になる家庭と、逆に園への支払いの減額分を園外の活動費に回す家庭とに分かれ、結果的に幼児教育の家庭間の格差がこれまで以上に拡大することも懸念されます。幼児教育の無償化が、本当に格差の解消や子どものためになっているのか、次回の調査(令和2年、結果発表は令和3年の予定)を注視する必要があります。
【データ】
文部科学省, 平成30年度子供の学習費調査の結果について
https://www.mext.go.jp/content/20191212-mxt_chousa01-000003123_01.pdf