お問い合わせ

調査研究・コラム

研究データ

〈2020/06/05〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】ともだちがおもい病気になったとき

小学校5年生の国語の教科書に「5年生で読みたい本」として紹介されている1冊の絵本があります1)。作者はスヌーピーやチャーリー・ブラウンというチャーミングなキャラクターで人気のチャールズ・M・シュルツ氏です。幼稚園や保育所ではなく小学校のしかも高学年の教科書でマンガのキャラクターたちの絵本というとビックリなさるかもしれませんが、薬の副作用で髪の毛が抜けてしまう白血病の子どもをクラスメートたちに理解させることを通して、がんの子どもの辛さをみんなが分かってあげることがどれほど大切かを教えてくれる深い内容の絵本です。書名は「チャーリー・ブラウンなぜなんだい? -ともだちがおもい病気になったとき―」、訳者は小児科医の細谷亮太先生です2)。

この絵本はアメリカの看護師さんが、チャールズ・M・シュルツ氏に書いた「ガンと闘っている幼い子どもたちのために、スヌーピーとその仲間の力を貸してほしい」という手紙から生まれました。シュルツ氏はその願いにこたえて、多くの人たちを動かしてテレビアニメができ、絵本が作られました。そしてアメリカに住んでいる元同僚の看護師さんたちからそのアニメや絵本のことを教えてもらった細谷医師が、病気の子どもたちを悩ませる、病気そのものではなく病気に付随する深刻な問題である「(心の)壁」を取り除く突破口になることを願って翻訳し、日本で出版しました。

 

チャーリー・ブラウンの仲間のライナスに新しくできた友達のジャニスという女の子が白血病に罹ってしまい、学校に来られなくなります。お見舞いに行ったライナスは、けなげに頑張って闘病しているジャニスを見て心が痛み、大人の言葉で言う「不条理」を感じて、帰り道、一緒にお見舞いに行ったチャーリー・ブラウンに「どうして、チャーリー・ブラウン、なぜなんだい?」と聞きます。チャーリー・ブラウンにも答えることはできませんでした。帰宅して姉のルーシーに、「嫌な子だから病気になった」と心無いことを言われたり、ライナスがジャニスに触れた手でルーシーに頼まれたミルクを持ってきたと知って「いらない」と不愉快なことを言われたりして、ライナスは怒りを覚えます。また、白血病が寛解(*)になって学校に一時登校してきたジャニスがかぶっていた帽子を、いじめっ子がとって髪の毛が抜けてしまったジャニスの頭をからかいました。これらのルーシーやいじめっ子の言動は、病気の子どもたちを悩ませる「(心の)壁」の一例です。姉のルーシーはライナスの抗議を無視しましたが、いじめっ子はジャニスに謝りました。
長い闘病を経て、ジャニスが元気になって帰ってきて、ライナスとまたブランコで遊べるようになったラストシーンの二人の笑顔がとてもかわいくて素敵です。

 

今、日本だけでなく世界中が感染症の脅威にさらされています。患者さんや感染の疑いがある人だけでなく、感染症対応の最前線にいて市民の命と健康を守るために大変な思いをして働いてくれている医療従事者やそのお子さんたちが、差別や偏見でつらい思いをした・しているという現実があります。これらは「(心の)壁」が作り出してしまった社会問題です。
ウイルス感染を防ぐための対策は必要です。けれど、壁をつくって大切な人たちを傷つけ孤独に陥らせてしまっては、人間関係が崩壊してしまい健全な社会でなくなってしまいます。
小学校5年生への推薦図書ですが、漢字にはフリガナが振られており、幼児でも保護者や保育者の方と一緒に読むことができる本書を、ぜひこの機会に手に取っていただければと思います。

*寛解:ガンの症状がよくなり、消失すること。また、そのような状態2)

【参考資料】
1)東京都立図書館、5年生の国語教科書紹介本のリスト、https://www.library.metro.tokyo.jp/pdf/14/pdf/puratanasu/p062-4.pdf
2)チャールズ・M・シュルツ 作、細谷亮太 訳、チャーリー・ブラウンなぜなんだい? -ともだちがおもい病気になったとき-、岩崎書店、1991年(初版)

一覧へ戻る

TOP