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調査研究・コラム

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〈2020/02/14〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】予防できたはずの子どもの死

日本の新生児死亡率は0.9%と経済協力開発機構(OECD)加盟国36か国のなかで最も低く、「赤ちゃんが最も安全に生まれる国」と報告されました。しかし5歳以下の幼児の死亡率は2.5%と2倍以上になっています(資料1)。なぜ幼い子どもの命を守ることができていないのでしょうか?

日本小児科学会が、4つの自治体(東京都・京都府・群馬県・北九州市)の2011年の子どもの死因を検証したところ、全368件中27.4%にあたる101件は防ぐことが可能だった死(予防可能死)と判断されました(資料2)。2014年の愛知県の調査でも、189件中51件(27.0%)が、予防可能性があった・予防可能性が高かった子どもの死であったことが報告されています(資料3)。予防できた死は事故死と虐待死に分けられます。

 

朝日新聞の調査によると(資料4)、事故の中で最も多いのが睡眠時、次いで溺死、転落・転倒でした。睡眠時の事故は0歳児に集中しています。自分で歩けるようになると、浴槽での溺水や窓、ベランダからの転落が増えます。他にも、ドラム式洗濯機や電気ポットなどの製品による事故がありますが、どの事故も繰り返されています。事故発生の原因や背景を明らかにして予防につなぐことができていないのです。

0歳児の睡眠中の窒息は、うつぶせ寝、添い寝や川の字で寝ていて親や兄弟の体(の一部)が赤ちゃんの顔の上にのってしまった、布団などが被さった、ベビーベッドの柵とマットレスや壁とマットレスの間に顔が挟まったことによって発生しています。浴槽は近年、高齢者が入りやすいようにするためのバリアフリー化で低くなってきていますが(高さ40㎝前後)、高さが50㎝以下だと頭が重い幼児は浴槽に落ち込む危険が高くなります。窓やベランダから転落した子どもたちは、窓際に置かれたベッドやソファー、ベランダに置かれた三輪車、植木鉢、ゴミ箱、新聞紙の束などを踏み台にしていました。

 

欧米では小児の死亡登録・検証制度(Child Death Review、以下「CDR」)が法制化されており、子どもの予防できる死亡を減らすことに活用されています。しかし日本では、子どもの死亡情報が集まる場所がバラバラで(保育所で死亡すれば厚生労働省、幼稚園で死亡すれば文部科学省、製品が原因の死亡は経済産業省や消費者庁)、情報共有がなされていません。また個人情報の保護や守秘義務、捜査情報開示のハードルが死因の分析や予防法の検討を難しくしています。虐待死の可能性があるので積極的な検証を行うべき事例の多くが埋もれてしまっている可能性もあります(資料2)

CDRは小児科医の虐待死の見極めと、警察への迅速で適切な通報にも役立ちます。子どもの死亡情報を共有できる社会的なシステムをみんなで協力してつくって、予防できる死から子どもを守ることにつなげていくことが急務です。

 

 

【資料】
1)ユニセフ, Child Mortality, 2018, https://data.unicef.org/topic/child-survival/neonatal-mortality/
2)溝口史剛ら, 子どもの死亡登録・検証委員会報告, パイロット4 地域における,2011 年の小児死亡登録検証報告 ―検証から見えてきた,本邦における小児死亡の死因究明における課題, 日本小児科学会雑誌, No.120, Vol.3, pp.662~672, 2016.
3)沼口敦, チャイルド・デス・レビューの実施に向けて ~小児医療者は何ができるか~ 愛知県における多施設共同でのチャイルド・デス・レビュー実施の取り組み, 小児保健研究, No.77, Vol.1, 23-26, 2018.
4)子どもの死 防ぐために, 朝日新聞, 2016年8月28日, 朝刊.

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