研究データ
〈2019/04/24〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
【神奈川大学産官学連携研究事業】第11回 子どものアレルギー
春は、花粉症に悩まされている人には辛い季節です。大人だけでなく、子どものアレルギー患者さんも増えています。では、実際に、どのくらいの子どもがアレルギーに罹患しているのでしょうか。また、いつ頃から増えたのでしょうか。文部科学省の学校保健統計では、アレルギーの中のぜん息とアトピー性皮膚炎に罹患している子どもの割合が校種別に発表されているので、そのデータから幼稚園児(*)と小学生で両疾患をもつ子どものグラフを作成しました。
ぜん息は1967年からデータがあります。ぜん息に罹った園児は1990年代から増え始め、2010年ころにピークになりました。小学生は、園児より4~5年早い1980年代の半ばから発症率が増え始めましたが、園児同様に2010年ころにピークになったのち減少傾向に転じています。それでも、ぜん息に罹っている子どもの割合は1960年代の10倍です。
同じアレルギー疾患であるアトピー性皮膚炎の発症率は、園児では調査開始の2006年からずっと減少しているのですが、小学生は2014年から増加傾向に転じています。なぜ、園児では、ぜん息もアトピー性皮膚炎も発症率が減少してきているのに、小学生では、ぜん息は減少しているのにアトピー性皮膚炎は増加するという現象が起こっているのか、その理由はよく分かっていません。文部科学省は、はっきりした要因は不明としつつも、専門家の意見として「抗菌、除菌グッズが増え、子育て環境は清潔になっている。こうした環境で育った子供は免疫を十分獲得できず、アレルギー体質になりやすいと言われる」と説明しています(毎日新聞2018年12月22日付)。
アレルギー体質になるかどうかは乳幼児期の生活環境によって左右されますが、その影響は幼稚園入園後(2歳以降)よりも1歳頃までの方が大きいことが近年の研究でわかってきました。さらに園(幼稚園・保育所とも)では、幼稚園教育要領・保育所保育指針にのっとって、感染予防と環境衛生に気を配り、子どもたちが手洗いや衣類の着替えなど身の回りを清潔にする生活習慣を習得できるよう支援していますが、神経質なまでに抗菌・除菌に固執した保育は行われていません。また小学校では、学校保健安全法にのっとって保健教育と保健管理が行われており、子どもたちが園と比べて「不潔な生活」をしているわけではありません。
アレルギーは、最初に発症した症状が続く場合もありますが、いろいろなアレルギー症状が次から次へと現れること(アレルギー・マーチ)もよく知られています。「園で清潔にしすぎているので小学生でアレルギーの発症が増えているのではないか」という文科省の説明とは別の、「アレルギーの発症がぜん息から他の形に変わっていて、その中の1つがアトピー性皮膚炎」という可能性もあります。学校保健統計にはぜん息とアトピー性皮膚炎のデータしか掲載されていませんが、これらに代わって食物アレルギーや化学物質過敏症などの他のアレルギーが現れた可能性は大いにあると考えられます。
アレルギーは今でも完全には解明されていない疾病ですが、子どもたちがより自然な環境で育つことの重要性、つまり衛生的な状態と屋外で過ごし土や動植物と触れ合う自然な状態との「バランスの重要性」が、医療職にも保育・教育の専門家にも再認識され、保護者の一層の理解と協力が求められています。
(*)学校保健統計には文部科学省管轄の幼稚園児のデータのみ(保育園児のデータはありません)
【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授