研究データ
〈2019/02/12〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
【神奈川大学産官学連携研究事業】第9回 いじめ
いじめは大きな社会問題です。特に子どもの場合は、心と体の健やかな育ちに重大な影響を及ぼし、生涯にわたる大きな傷となってしまう恐れがあります。いじめはどの年齢でも発生する可能性があり、幼児でも、東京都立教育研究所の調査報告(幼稚園児:4歳92名、5歳149名)によると、担任による聞き取り調査に対して約6割が「いじめられたことがある」と答えています。幼児期のいじめは身体的な不快感が6割前後と多く、言葉による不快感は、年齢が進むにつれて増加していきます。1)
では、いじめ被害を受けるのはどのような子なのでしょうか。これは公的な国内の大規模調査がみあたらないのでOECD(経済協力開発機構)による国際調査2)を見てみます。OECDの調査はPISA(生徒の学習到達度調査)の学力テストを受験した生徒を対象としたものなので、幼児のデータではないのですが、いじめ防止の根幹である「どういう子どもがいじめられるのか」を知り、幼児期から防止(いじめの加害・被害の両方)の対策をしていくことが重要であると考えられるので、紹介します。
OECDにはたくさんの国が加盟していますが、児童福祉や子どもの保護の先進国であるスウェーデン、出生率が向上し子育てがしやすい国として高く評価されているフランス、先進国の中で社会格差が大きな問題になっている米国、移民が多く多様性が特徴であるオーストラリアと、異なる特徴を持つ先進国と日本の、学力といじめの関係の数値をピックアップしてグラフ化しました。成績とはPISAの学力試験の結果で、1群が最も成績が低いグループで、10群が最も好成績のグループです。国際的には成績が悪い子どもがいじめの対象になることが多く、表記以外の他のOECD諸国も同様なのですが、日本では成績のよい子がいじめられているという結果でした。日本以外で成績のよい子がいじめられるのは韓国だけです。また、ほとんどの国で「恵まれない家庭(*)」の子どもほどいじめにあっていますが、日本では「恵まれた家庭(*)」の子どもがいじめにあっているという結果が示されています(韓国では、恵まれた家庭と恵まれない家庭の子どもの間に差はありません)。
大人はつい、「成績がよくない」「家庭環境に恵まれていない」等の弱い立場の子どもがいじめられることを心配します。しかし、日本の場合は、いじめから守られていると思われる子どもがいじめられるという現実があります。どんな子どもでもいじめられる可能性があると言われますが、保育者・保護者・教師はそれをしっかりと再認識して、全ての子ども達を幼児期から注意深く見守っていく必要があります。
(*)恵まれている家庭かどうかは、両親の教育水準、職業上の地位、保有資産から算出される指標で判別され、上位1/4が「恵まれた家庭」・下位1/4が「恵まれない家庭」の子どもと区分されている。
【参考文献】
1)東京都立教育研究所、「いじめ問題」研究報告書 いじめの心理と構造をふまえた解決の方策、平成10年(1998年).
2)OECD, PISA 2015 Results (Volume III) Students’ Well-Being,
http://www.oecd.org/education/pisa-2015-results-volume-iii-9789264273856-en.htm
【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授