研究データ
〈2019/01/21〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
【神奈川大学産官学連携研究事業】第8回 少子化対策の成果が上がらない理由
2017年に生まれた子どもの数は過去最少を更新し、出生率は1.43と2年連続で低下しました1)。1995年からのエンゼルプランにはじまる様々な少子化対策が講じられてきていますが、残念ながら成果は上がっていません。なぜなのでしょうか。
図は、1968~2016年(日本のみ2017年まで)の約50年間の、日本、スウェーデン、フィンランドの合計特殊出生率2)の変遷を実線で、変化の傾向を点線でそれぞれ示しています。日本に先んじて少子化社会となっていたスウェーデンやフィンランドは出生率の変動が大きいのですが、変化の傾向を見ると、スウェーデンは一定水準を維持しており、フィンランドは緩やかですが上昇傾向にあります。一方、日本は著しい減少傾向を示しています。
この状況の背景には、スウェーデンの場合は児童手当や両親保険などの充実した育児休業や多様で柔軟な保育サービスが、フィンランドの場合は妊娠期から就学前までの切れ目のない子育て支援制度(ネウボラ)があります。また、日本では現金支給の割合が高いが、現物支給の割合が高い国の方が出生率は高い傾向にあるという分析もなされています。3)
支援サービスと出生率はそれぞれ事実です。けれど、それらが本当に因果関係にあるのか、本来は関係のないことを関係があるかのように誤認しているのか、注意が必要です。フィンランド人は物が貰えるから子どもを持とうと思い、日本人はお金を貰えても物は貰えないから子どもを持とうとは思わないのでしょうか?!そんなことはあり得ません。「フィンランド人やスウェーデン人はコーヒーをよく飲むから出生率が上がり(1人当たりで世界で最もコーヒーを消費する国の1位はフィンランド、2位はスウェーデン)4)、日本人はお茶を飲むから出生率が下がっている」と言っているのと同じ変なこじつけです。
スウェーデンやフィンランドの子育て支援策は少子化対策ではありません。仕事と育児に関しても男女平等な社会づくりと児童福祉の推進を目指す家族政策です。子育て支援策は結果的に出生率向上につながっていますが、出生率を高めることが目的ではありません。一方、日本では、高齢化社会を支える労働力が不足するという点が問題視され、子育て支援策は少子化対策として位置付けられています。子どもを持つことは人生の選択肢の1つで、子どもにとっても自分にとっても幸福な人生になることを願って子どもを持つのであって、将来の高齢者を養うための労働力を供出するために子どもを持ちたいと思うわけではありません。日本の子育て支援政策が出生率向上を目的とした「高齢化社会対策としての少子化対策」である限り、少子化問題は解決しないと思われます。
【参考文献】
1)厚生労働省、2017年人口動態統計
2)世界銀行、Fertility rate, total (births per woman) 合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)
https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.TFRT.IN
のデータから著者が作図
3)内閣府、選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像― 2015年
4)GraphicMaps
https://www.graphicmaps.com/top-coffee-consuming-nations
【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授