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調査研究・コラム

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〈2018/10/15〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】第5回 幼児期とその後の健康教育のつながり~日本とスウェーデンの事例から~

幼児期の健康は、子ども時代だけでなく、その後の長い人生を健やかに過ごす土台をつくるためにも重要です。子どもの健康福祉でも国際的な評価が高いスウェーデンと日本のプレ・スクール(保育所や幼稚園など)に通う子どものケアを通して、在園時の子どもの健康を守ることと生涯にわたる健康管理ができる力を育てることについて考えます。

健康関連の行事で日本とスウェーデンで大きく異なるのは健康診断です。日本では学校保健安全法に基づいて園でも健康診断が実施され、園が子ども達の健康状態を直接把握しています。スウェーデンのプレ・スクールでは健康診断は行いません。健康診断や健康管理は、大人も子どもも地域の保健センターの管轄です。ただしプレ・スクールは保健センターと連携しています。また、子どもの健康や精神状態の異常に気付いた場合、社会保険庁に通知する義務が課せられています。日本とスウェーデンのどちらのやり方がいいかは一概には言えませんが、虐待が疑われる場合や保護者が子どもの発達を含む健康問題に気付いていない・認めない場合、日本では、相談先・通知先に迷って時間をロスすることがありますが、スウェーデンでは一元化されているので迅速に相談・通知することができます。

ところで、子どもの朝食欠食がスウェーデンでも問題になっています。日本では、子どもに朝食をとらせるよう保護者にアドバイスをしますが、スウェーデンでは、忙しい・朝食をとる習慣がない等の親の事情で朝食を食べてこない子どもはプレ・スクールで朝食をとることができます。しかし、それで両親が子どもの朝食を用意しないという習慣が固定化してしまい、小学校でも朝食サービスをせざるを得なくなっています。日本でも、朝食を食べてこなくても朝おやつがあるので、お昼ご飯まで何とかなると思われてしまうことがあるようです。「おやつには食事とは別の目的・意味があり、おやつは食事の代わりにはならない」ことを保護者に説明して改善を促すのは、保育者にもストレスがかかります。

自分で朝食を用意できない幼児の朝食欠食による健康ダメージを防ぐために、本来なら家で食べてくるべき朝食を園が提供するのも、本来のおやつの目的とは異なる利用のされ方を黙認するのも、いわばやむを得ない緊急対応です。重要なのは、園で朝食などを食べさせてもらった子ども達が、朝食の重要性を認識して、大きくなったら自分で作って食べるようになり、また自分が親になった時に、子どもに朝食を食べさせるようになることです。自分の朝食を用意できない、「子どもに朝食を食べさせなくても、園や学校が何とかしてくれるだろう」と考えてしまう、おやつをご飯代わりにしてしまう、そんな自分や家族の健康管理ができない大人にならないで、自分と家族の生涯に渡る健康づくりができる力をつけることができるよう、日本でもスウェーデンでも、幼児期とその後の食育・健康教育をしっかりつなげていく必要があります。日本の場合は、2017年の保育所保育指針や幼稚園教育要領の改訂(2018年4月施行)の大きなポイントである、「10の姿」によって幼児教育と小・中・高等学校教育をつなぐという理念の実践という点からも重要です。

 

【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授

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